台湾トイレ事情

十数年ぶりで海外旅行をした。とは言っても台北三泊四日のパックツアーである。ともかく寒い日本を抜け出して暖かい風に吹かれたかった。そうすればしつこいリュウマチの痛みも和らぐかもしれない。とは言っても長旅では静脈血栓症でもある私はエコノミークラス症候群が心配だ。そんな訳で一番近い南の国、台湾それも台北ということになった。台湾にはまだ行ったことがない。

桃園空港からの出迎えのバスの中で現地のガイドが妙なことを言う。ホテルのトイレで紙は流さず備え付けのゴミ箱に入れて下さいというのだ。なるほどホテルに入ると部屋のトイレの便器の横にビニール袋を入れた大きなゴミ箱が置いてある。でもそれには蓋がない!これに汚物のついた紙を捨てるのはたまらない。しかも便器は日本のように暖房便座でもなければシャワーが付いているわけでもない。仕方なく罪悪感を感じながらも濃厚に物のついた一度目の紙はそっと便器に落とし、二度目、三度目の仕上げの紙をゴミ箱に入れた。トイレットペーパーそのものは日本で使うものと大差はないように見えた。

はてな、何故こんな事をするのか?最近韓国でも同じ経験をしたという妻の主張はこうだった。紙はリサイクルして再使用するのだろうと言う。そうかとも思ったが何となく腑に落ちない。台湾ではそんなに森林保護が徹底しているのだろうか?リサイクルに要する手間とエネルギーは馬鹿にならないだろうに。

帰ってからWebで調べてみた。この事実に関する公式のサイトは見つからなかったが個人的な見解を述べたブログがいくつかあった。総合してみるとどうもこういうことのようだ。つまり台湾では下水管が細く不完全なので紙を流すと詰まる事故があるというのだ。水に溶ける紙の開発で日本ではとっくに解決済みの問題がまだ生きていたのだ。おそらく溶ける紙は使っているだろうが下水管の方に問題が残されているようだ。便器を詰まらせると修理費を請求されるというから大変だ。

それにしてもカルチャーショック、臭い使用済みの紙を蓋もしないでバスルームに置いておくという神経は日本人には理解し難い。これも長い歴史の中で育まれた文化遺産なのかもしれない。今のことは知らないが30年前の中国では公衆トイレには仕切りがなく縁台のようにずらりと並んで腰掛けているのだった。

帰国後妻が友人にこの話をしたら、その友人は戦時中の児童疎開時の体験を語った。その頃は勿論汲み取り便所で人糞は貴重な肥料だった。紙を混ぜると邪魔になるので使用済みの紙(その頃は大抵の場合新聞紙や雑誌)は別にして箱の中に入れていた。その子はそれを知らずにどうしてこの紙は何時も湿っているのだろうと不審に思いつつそれで拭っていたというのだ。

ブログの一つにかって黒い森で有名になったドイツでは環境保護のためにトイレットペーパーをリサイクルしているという記述があった。本当だとすればさすがドイツ、凄いことだと思う。20年ほど前はドイツに何回か行ったがそれには気づかなかった。

最近海外に行っていないので他の国の最近の事情は分からないが日本ほどシャワートイレの普及している国はないように思う。8年ほど前に書いたことがあるがこれは衛生的で健康的で日本が世界に誇れるものだ。もっともシャワートイレのオリジナルはアメリカで発明されたということだが何故かアメリカではあまり普及することがなかった。これも文化の違いだろうか?最近の事情は知らない。

帰路、成田空港でトイレに入った。清潔で快適な空間、暖房便座、シャワートイレ、それに便座に敷く紙まで用意されていた。ああ、日本は良い国だ!