小宮山さんの実験

前東大総長の小宮山宏さんがやった個人的な実験をご存知だろうか?6年をかけて今の市販の技術と製品を使って行った彼の住宅のエコ対策は特に目新しいものではない。外壁断熱、二重ガラス窓、給湯エコキュート太陽光パネル、高効率のエアコンと冷蔵庫、ハイブリッド車などという普通のものである。しかし驚くことにその結果使用した電気、ガス、ガソリンのエネルギー総和が対策前に比べてなんと80%削減出来たというのである。工学畑の小宮山さんだから計算に間違いはないだろう。おまけに騒音も結露も無い快適な生活環境が得られたと自賛する。

勿論これらの設備には相当の費用がかかる。でもエネルギーコストの低減で耐用年数に達するかなり前に回収可能だという。またこれらの設備機器の製造は新しい産業や雇用の創出につながるだろう。

温暖化ガス削減と言ってもそれは産業界の話だとたかを括っている人は多いのではないだろうか?でも実際は世界の消費エネルギーのうちもの作りに使われるのは45%で残りの55%は一般の家庭やオフィス、輸送など人の暮らしに使われているという。だから暮らしエネルギーの80%削減は消費エネルギー全体では55X0.8で44%もの削減率にあたる。

この実験から鳩山さんが打ち出した世界への約束1990年比25%削減は絵空事ではないことが分かる。今コペンハーゲンで行われているCOP15ではCO2削減をめぐって各国の間でかけ引きが取り沙汰されている。ともすればCO2削減を自国への利益誘導の道具に使おうとするエゴが丸出しで浅ましい。とりわけ世界の温暖化ガス排出の40%を占める大国、アメリカと中国が消極的なのは情けない。中国はまともな削減の枠組みに入ろうとしないし、失礼千万にも日本の25%削減は実現不可能な宣伝に過ぎないと非難する始末だ。アメリカは1990年比4%という低い値しか提示していない。ノーベル平和賞受賞の理由の一つにもされたオバマさんのグリーンニューディールとはこんなものだったのか!

小宮山さんの実験は大いに評価され参考にされなければならない。世界の人々に勇気と希望を与えるものだ。日本の代表はこの素晴らしい実験をCOP15で披露しただろうか?

一つだけこの実験データで気になる点がある。それはこのエコ対策に使われた太陽光パネルハイブリッドカー、給湯、冷暖房、断熱設備などの製造・更新に使われたエネルギーの総和である。これらは削減エネルギー80%から差し引かれなければならないだろう。

日経サイエンス 2010年 01月号 [雑誌]

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