ハイルブロンの怪人

ドイツ南西部のハイルブロンで2007年夏に女性警察官が殺害された事件を含め、オーストリアなど隣国にも及ぶ計40件のさまざまな犯罪現場から同一女性のDNAが検出され、「ハイルブロンの怪人」と呼ばれていた。ところが今年2月以降、少年らが窃盗目的で学校に侵入した事件からもこの女性のDNAが検出されるなど、明らかにつじつまの合わないケースが続出。当局が改めて調査した結果、問題のDNAが、綿棒を納入していた業者の女性従業員のものであることが先月27日明らかになった。DNAの採取に使った綿棒がこの女性のDNAで汚染されていたのである。

はてな?何処かで聞いたような話だが・・・ああ、思い出した。

昔研究所にいた頃の話だが微生物の培養液からある生物活性をもつ物質を抽出するのに成功した。ところがその物質の構造を分析してみたところ何とそれは培養基に使った大豆粉に含まれるフラボノイドというありふれた化合物だった。それだけではない。実験に使った器具のプラスチックから滲み出した微量の可塑剤に騙されたこともある。こんな失敗が科学の世界でも往々にしてあるのだ。

ちょっと古くなるが今もって決着していない政治にからんだ問題もある。北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの遺骨のDNA鑑定である。日本の鑑定ではめぐみさんのものではないという結論が出されたが、何分にも非常に鋭敏なPCR法を使っているので骨を取り扱った人の汗などで汚染されたものである可能性は否定しきれない。この問題については以前に「なみへいのサイエンス」に書いた。

人の思い込みは恐ろしい。あくまで謙虚に科学に忠実にとこれらの問題は教えているようだ。それにしても綿棒に製造作業員の汗や唾が付着しているというのも感心出来る話ではない。